___ 1989年 チェロ


このチェロのラベルは完成したときの年が書いてある。
人によって胴体をふさぐ時にラベルを貼り付ける人も
また完成してから入れる人もいる。
作り始めに入れたとすると1979年製となる。
実に10年も完成までにかかっている。

だが楽器は作り始めたからといって
そればかりに取りかかっているわけではない。
ぼくはこのとき天正少年使節の古楽器製作と
同時進行していたのであった。
白木でできあがりニスを塗り始めたのが1987年。
この2年の間に途中でニスの配合を今までとは少し違うものに
換えた。先代のニスに新しいニスを上塗りしたのは
樹脂の量を変えたのと2種類の別な樹脂を加えただけで
性質は同じと考えあえて先代ニスをはがさなかった。

結果的に言うと色調、重厚度は非常に良くなったが
20年経った今になって少しヒビが出てきた。
同じヒビでも楽焼きのように均一にでてくると
それなりに美しいのだが今のところどうなるかわからない。
持ち主にはまだ言っていないが後年問題がでてきたなら
塗り替えさせていただくかもしれない。
そのときは別のチェロを作ってニス塗り中
それを弾いてもらうことになる。
演奏家にブランクがあってはならないから。
本来ならこんな話をすると注文が来なくなるかも知れない
が仕方がない。本当のことだからだ。
だがぼくは決して失敗だとは思っていない。
色が益々よくなっているからだ。
それにしても少しばかり問題はあるとしても
この楽器は限りなく愛おしい。大好きなチェロである。